1)被験者Dは、先天性の全ろう者で、耳は全く聞こえず口もきけない。 手話には熟練している。 2)被験者Eは、後天性の難聴者で、音は聞こえるがその方向や内容は判断できない。 つまり感音性難聴で、聞く音をいくら大きくしても情報の意味を聞き分けられない。 口話法(読唇術)に優れて普通に発声できる。 3)両者とも、周辺の通行者からみると、障害者であることは全く気付かない。 2. 駅利用の前提条件 1)全ろう者の場合、他人に聞くとすれば筆談となり、会話が成立しにくいから、なかなか人に聞くことができない。 外見上障害が見えないから、無言で筆談を頼もうとする様子を奇異に思われるケースも多い。 2)全ろう者が鉄道利用中不便で不安なのは、電話ができないことである。緊急時に連絡をするには本人が直接行動する以外方法がない。 3)この難聴者は口話法に優れているため会話は成立するが、相手の口が見えなければ情報を読み取ることはできない。 4)これらのことから、両者とも必ず事前情報を収集してから行動するのは、視覚障害者の場合と同様である。 5)手話や口話法のできない聴覚障害者は多い。 3. 情報受容の特徴 1)聴覚障害者は、専らビジュアル・サインを主体とした視覚案内を頼りに行動している。 2)一般の人が気軽に聞いて済まされるような内容でも、他人に聞くことができにくいから、サインでなくとも情報として機能する視覚的な手掛かりは、見逃さないように注意して行動する。 3)他人に何かをたずねる時、全ろう者の場合、一般の人とは会話ができにくいため相手は駅員に限定されがちである。 口話法で会話できる難聴者の場合、相手にこだわりは特にない。 4)異常状況の把握について、一般の人の場合、聴覚や嗅覚など視覚以外の感覚から得る情報に頼っていることが多い。 聴覚情報には例えば、人々のざわめき、人の叫び声・大声、人のかけ出す靴音、ブレーキ音、サイレン、うなり声、振動音、機械の異常音、爆発音などがある。 嗅覚情報には例えば、焦げる臭い、薬品の臭い、異臭などがある。 鉄道では車内でも駅でも、異常時情報は音声放送を主体に提供されている。 聴覚障害者は、これらの聴覚情報を全く得ることができない。 5)発車ホームの変更や後続列車の接続・通過待ちなどの状況で視覚情報が得られない場合、移動したり出入りする人々の様子を見て、予定・予測と異なることを感じ取る。
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